水遣りの悩みを解消!?

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水遣りの悩みを解消!

 
 東洋蘭の栽培では「水掛け三年」などと言って、「培養土選び」「肥料選び」と共に難しいものの代表と言われています。「水掛に失敗して根が無くなった」という苦い経験は誰でも思い当たる事だと思います。
 ところがよく考えてみると「環境」と「鉢」と「土」と「潅水」は、どれも不可分の関係で、個別の問題と考えるよりも総じて「鉢内の水分の管理」と考えた方が分かりやすくなります。
 「そう言っても、鉢内が見える訳でも無し…」と思われるかも知れませんが、実は簡単に判ります。「鉢の重さ」と「乾燥した土の重さ」が分れば、潅水して増えた分は全て「水」だからです。

 次に水の性質に付いて少し考える必要が有ります

 まず「土壌の水分特性」に付いてですが、土には「圃場容水量」という性質があり、正確には「重力による水の下降運動が、非常に小さくなったときの含水量」をいう事になっているそうですが、一般的には「飽和含水量」と考えた方が分かり良いと思います。要は「多量の潅水を行った直後の余分な水は鉢底から流出して、土粒にこれ以上水を含むことが出来ない状態」です。これは土の種類によって大きく異なり、腐植土(団粒構造の黒土)⇒300〜100%、洪積土(ダケ土)⇒50〜30%、砂(川砂)⇒15〜8%となっています。なお、一般的に使われている市販の「さつま土」を調べたところ、66%前後でした。(正確には気温や空中湿度によって変化しますが、蘭の培養では無視できると思います。)

 もう一つの観点として、土壌内に含まれる水分にはその量的変化に伴って「自由水」、「溶解水」、「結合水」と性質が変化します。このうち植物が利用できるのは自由水だけなので、常に自由水がある環境下で育てる方が良い事になりますが、カビの仲間も自由水の領域で盛んに繁殖する事から、根の数が少なくその繁殖も旺盛でない蘭の栽培では危険を伴います。その様な事情から「湿潤」と「乾燥」を交互に繰り返す栽培方法が最も安全なので、それが普及し実行されるようになったのではないかと思います。

 そこで表1の地点を過ぎたところで潅水を行うのが最も安全で効果的と言う事になりますが、逆に、表1の地点に近付くと肥料の濃縮化が起こる可能性が高まり、別の意味で「根傷み」の原因になる危険が有ります。模式図では結合水の領域が自由水の領域よりも大きく感じますが、実際に観測してみると結合水の領域は圃場容水量の数%程度なので、無視できるのではないかと思います。最も適正な潅水時期は、自由水が少なくなって地点に近付いた頃だと思われます。栽培シミュレーターは、この地点に到達する時期を計算で求める事が目的です。

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 土壌に含まれる水分は時間の経過と共に蒸発します。このとき、気温、湿度、風、日照などの影響により変化の推移は大きく異なります。これには「飽和水蒸気量」、「透湿率」などが関わっていると考えられます。飽和水蒸気量とは、ある気温での一立方mに含みうる水分量で、そこから相対湿度を求める事ができます。これを使えば、土に含まれる水分量から気化する事が可能な量を逆算する事ができそうです。

 当然空気は動いていますから、風速も大きく関わります。併せて日照時間も重要な要素です。これには強制換気の有無や遮光率も考慮する必要が有りそうです。また、土の透湿率は自由水の領域では意味を持たず結合水の部分で影響しますが、値が小さく植物の栽培には関係が無さそうです。しかし、極めて湿度の高い状態が続いた場合には関係すると思われます。

 鉢の材質や形状も考慮する必要が有りますが、これらを算出する式は有りませんので最も乾き難いと思われるプラ鉢を基準に、似通った形状の半楽鉢、楽鉢(青銅鉢を使用)を指数化する方法で求める事にします。また、口径の大きな浅い鉢は最も乾きやすく、口径の小さい通気性の無い深い鉢は最も乾き難いのですが、蘭鉢にはそれほど大きな形状の変化が無いので、今回は形状に付いては考慮していません。


 蘭に使用される培養土の時間的含水率の変化

 最も気温が高い8月に「5号プラ鉢」の一般的な三層植えで、それぞれの培養土に付いて実験を行いました。実測平均値が計算値から最も外れている部分は降雨による影響です。黒土の保水率が極めて高いことや、ダケ土、パーライトがそれぞれ12%前後、18%前後で横這いになったのは溶解水領域に到達したものと思われます。

なお、計算値は気象要素の指数を含まない単純計算であり、実測値の平均と計算値の誤差は0%にしています。

 計算値との比較による「気象要素」の与える影響

 このグラフから読み取れる事は、プラ鉢の場合でも気候による影響を強く受けていること、含水量は異なるものの総じて同じようなカーブを描いていること、27日目前後で変化が無くなることなどが分かります。

 問題は気候による変化ですが、先に述べた「飽和水蒸気量」と風や日照が関係しています。グラフを見ると完全に横這いの日と急激に減量する日がはっきり読み取れます。ここで問題になるのは「飽和水蒸気量」が「ある気温での一立方mに含みうる水分量」である点です。その内の既に含んでいる水分率が相対湿度ですから、1から相対湿度を引いたものに「飽和水蒸気量」を掛ければ「蒸発することができる水分量」を求めることはできますが、「一立方m」が問題になります。空気はじっとしているわけではないからです。結局、これは実数としてでは無く指数として考える事になります。不快指数の計算式では有りませんが、平均風速に「蒸発することができる水分量」を掛け、更に定数を掛けたものを風の指数とします。理由は「蒸発できるマイナスの水分量を持った風が平均風速で吹いていたとしたら、鉢表面から蒸発できる水分量に近くなる」からですが、蒸発量は風速に比例しているわけではないので、この部分も指数化する必要が有りそうです。

 グラフの計算値に示したものがその結果です。グラフは実測値の平均と計算値の誤差を0にしていますので、それぞれの土との傾きが異なりますが、後述の定数として特定の土に合わせれば傾きを一致する事ができます。

 後は作場の条件や鉢の種類、土の種類による差ですが、これらは定数として掛ければ値を調整するだけで微調整が可能になります。今後の実験結果から近似値を見つける事ができれば、より実測値に近付くと思います。


 栽培シミュレーターの計算結果と実測値の比較

 上のグラフは2006/5/5〜2006/5/21の間の実測値と計算値の誤差を示したものです。検体には毛細管現象が顕著なさつま土を使用しました。計算値の算出には、検体とは別に標準とした今澤製陶製焼〆鉢にそれぞれの鉢の定数を掛けたものですので、それぞれの計算値の描く線は同じ物です。また実測値は5グラム以下を四捨五入しています。
 それぞれの鉢の実測値と計算値の比較では、完全一致とは言えませんが実用には支障が無い程度までは一致しています。プラ鉢の場合は最大で4.26%の誤差が有りますが、これは潅水直後の余分な水が一日目の計測時までに抜けきっていない事が原因で、定数の値を押し上げている事に因ります。また、素焼鉢の場合は逆に一日目の計測時までに急速に余分な水が抜けていますが、それ以後は計算値と一致しています。青銅鉢の場合は実測値とほぼ一致している事から、計算値の精度は高くなっています。


 潅水量の安定化

 実測値側の最大の問題点は、毎回確実に同量の潅水を行う事は技術的に極めて困難で、潅水の度に誤差が生じる事です。この傾向はプラ鉢が最も少なく、素焼鉢で最大になります。(下図参照)


 潅水量を意図的に少なくした場合(鉢底から少し流れ出る程度)のデータですが、プラ鉢、青銅鉢の誤差が比較的少ない事に比べて、素焼鉢の実測値と計算値の比較では初期値が20.23%の誤差に拡大しています。(全体に初期値が高いのは降雨のため)
 この結果から、毎回の潅水量を安定させる事はシミュレーターの精度よりも優先する課題である事が分ります。

 シミュレーションの精度を実測値に近いものとするためには、実際の潅水時に鉢底から水が流れ出てもなお続けて潅水を行い、シミュレーターを[土粒にたっぷりと行き渡るまで]に設定して下さい。[鉢底から少し流れ出る程度]の場合も計算値は設定されますが、実際の潅水がマチマチの結果になるので精度が劣ります。


 環境による含水量の変化

 通風や日照などの環境によっても残存含水量は変化します。次のグラフはそれぞれ「日照が無く風通しの悪い作場」、「日照の少ない通常の作場」、「日照の多い風通しの良い作場」を同一用土同一鉢で比較したものです。(実測値の比較)

 同一用土、同一鉢の場合でも、作場の環境によって含水率には大きな開きが生じる事が分ります。データはプラ鉢を使用した例ですが、環境による影響が最も少ないと思われるプラ鉢の場合でも、2週間後の含水率は乾きやすい作場が53.03%で有るのに対して、乾き難い作場では79.10%でした。この結果から作場の環境は、用土や鉢よりも含水率に影響を与える重大な要素である事が分ります。

 理論的には日照、通風の悪い作場で一ヶ月に一回の潅水を行う場合と、日照通風の良い作場で2週間に1度の潅水を行う場合とでは、同じ含水率を維持する事になりますが、結果的に蘭の育成に大きな開きが生じる事は容易に想像できます。

 栽培シミュレーターの初期値は「普通の日当り風通し」として、グラフの平均値が代入されています。これは「日当り風通しが良い作場」と「日当り風通しが悪い作場」のそれぞれの定数を平均化した値で、実測値では有りません。理由は個々の作場環境が不明なためで、個々の作場がどのような環境であっても「乾き易い作場」と「乾き難い作場」の間に含まれているため、平均値が実態に近いのではないかと考えたからです。(当たらずとも遠からず)私の作場の場合は平均値に比べて、やや乾き難い作場に近いのですが(グラフの日照通風普通)、これをシミュレーターで一般化することには意味が有りません。

 栽培シミュレーターでは「日当り風通しが良い」「普通の日当り風通し」「日当り風通しが悪い」の3種から選択する方法を採っています。これを数値化すれば10段階に分ける事も出来ますが、作場の管理者が自身の作場環境を客観的に把握していないので、混乱が生じるだけであると判断したためです。普通は感覚的に「他所に比べて乾き難い」とか「平均的ではないか」と言う程度の認識だと思います。 


 降雨による影響

 ここまでの数箇所に「降雨による影響」と書きましたが、どなたも梅雨時期に鉢が乾かないという経験をされているのではないかと思います。気象庁は「洗濯指数」などの不確定要素を含むデータは発表しない事になっていますので、湿度と降水量から実測値に適合する指数を見つける必要が有りますが、実際にやってみると極めて困難であることが分りました。用土中の水分は空中湿度ほど急激に変化せず、降雨が観測された翌日が晴天でも含水量が僅かしか変化しなかったり、晴天が続いた翌日が大雨でも含水率が変化する場合もあり、当日の降水量と湿度だけで含水率変化を予測するのは正確性を欠く事が分りました。また、降水量よりも降水時間の方が含水率変化に関与している事が分りましたが、降水時間は発表されていませんので、結果的に降水量から降水時間を推測する方法を採っています。(時間雨量が極めて多い場合も有るので不正確さは払拭できません)

 (計算値と実測値の時系的比較)グラフの実測値の変化が少ないか無い場合(3箇所)が降雨の影響ですが、計算値側がどうにか追尾している事が分ると思います。


 各地の気象条件による鉢内含水率の差

 以下は同一の鉢、用土、環境条件で、主要な各地の鉢内含水率をシミュレートした結果です。

 

 それぞれの値が全く別のラインを描いている事に、注目して頂きたいと思います。通常、鉢内含水率が50%に達したところで次回の潅水を行うものとして、この時の気象条件では最短の広島は5日目、最長の高知では11日目になります。この様に気温要因よりも地勢的要因が含水率に変化を与えている事が分ります。(名古屋と大阪が類似している点が興味深いと思います。)

 また、静岡では7日目に50%に達しますが、広島の場合7日目には34%しか水分を含んでいません。「春秋は7日に一度」と言いますが、34%の含水率では肥料の濃縮化が起こります。潅水をマスターするためには、お棚の地勢的要因に合った潅水のタイミングを理解する事が何よりも重要です。

 言うまでもない事ですが、このグラフは6月のある期間のもので、常に広島が乾き易いという事では有りません。サンプルのどこの地方でも気象条件や季節要因によって大きく変化します。変化し続ける気象的要因を流動的に捕捉するために東洋蘭栽培シミュレーターをご利用いただければ幸甚です。


 まとめ

 一年間の観測結果から、気象条件が鉢内の含水率に与える影響のあらましに付いては分りましたが、用土中の含水率は空中湿度の急激な変化に連動しない場合や、前日の影響が残っていて当日の気象条件以上に反応する場合や、用土による毛細管現象の多少や時間的な遅れなど、必ずしも一日単位で区切れない要素もあり完全に追尾できたとは言えません。

 それにも増して、誤差が拡大する最大の原因は潅水量の一定化が不可能であると言う技術的な問題点が有った事でした。この点では、「鉢底から水が流れ出てもなお潅水を続ける」程たっぷりやる方が一定化すると思います。時間と手間を惜しまないなら、鉢底から水が流れ出る程度を数分後にもう一度やる「二度やり」の方がより安定すると思います。

 言うまでもなく、鉢内の残存水分が根を悪くしている訳では有りません。根に寄生している病原菌や腐敗菌が適度な気温と水分によって旺盛に繁殖し、物理的に多湿な環境や、乾燥によって濃縮された肥料が根系にダメージを与え、抗菌力を失った部分から病気や腐敗が進行します。(この分野はまだ不明な部分が多く確定していない事も多い。アポトーシス、ネクローシス、ストレス化合物、ファイトアレキシンなどを参照されたし。)栽培シミュレーターで現在の含水量が把握できたとしても、根系の腐敗とは直接関係しない事を理解して頂きたいと思います。

 その上で、根系の保全のために物理的ダメージを与えない潅水管理を確立する事が「栽培シミュレーター」の目的です。過湿と過乾燥を繰り返す従来の栽培法から、常に適正な含水量を保つ栽培法が確立できれば、蘭は旺盛な発育と繁殖をするものと思います。まだ未解決の問題や不明部分を含みますが、実用の範疇に達したものと思い公開する事にしました。今後もデータの集積を行い確率の向上を図りたいと思います。また、栽培全般に付いての情報も充実したいと思っています。ご意見ご要望などをお寄せください。Eメール

 

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